腰痛に対し、医師、柔整師や鍼灸師、治療家の中にも「これは治りにくい」と不用意に発言してしまう先生が、ほんの一部ですがいらっしゃいます。本当に難しく治りにくいものは仕方がありませんが、「この程度で治りにくいといわれたの!」とこちらが驚くような例も結構あります。
松野 武さんは 30代の男性。工場で働いていらっしゃいます。職場のリーダーで若い人たちを指導されています。
身体が疲れやすく、腰痛があります。背中が全部はるそうです。
ある製品を持ち上げる仕事が日常的にあるのですが、さっとうまく持ち上げることができません。いつも手間取っています。若い人にしめしがつかないと嘆かれます。
ある製品を普通に持ち上げられるようにすることが重要だと考えました。松野さんは製品を持ち上げようとして毎日、自信喪失しているのですから。仕事で一番多い作業が普通にできるようになること、製品を持ち上げることから自信が回復していきます。
松野さんは「この腰は治りにくいので、時間はかかるとおもうのですが」とおっしゃいます。近くの整骨院に通院されていたのですが、この腰は治りにくいと繰り返し言われたそうです。「骨盤がゆがんでいるそうです。腰の骨が曲がっているそうです」と整骨院で言われたままに説明してくださいます。
実際に診断してみると、腰はたいして悪くはありません。筋肉は十分ついているし、立派な体格の方です。「大丈夫、あなたは元気だ」と励まし、針灸治療したら、その場である製品と同じくらいの重さの砂袋を普通に持ち上げられるようになりました。きつねにつままれたような顔で驚いていらっしゃいました。
車に乗るとまだ腰は痛みますが、工場の仕事では痛まなくなりました。じつは松野さんは数年間うつ病に苦しんだ方。一年前から薬なしでも生活できるようになったのですが、疲れやすく人の名前もうまく覚えられない、なんとかならないかと来院されたのです。松野さん自身、腰はほとんどあきらめていらっしゃいましたが、こちらは治しやすいと判断しました。まず腰から治して自信をつけていただこうと考えたのです。
小さな息子さんも、腰痛が怖くて抱けない状態でしたが、「大丈夫抱いてください。ひどくなったら結(ゆい)で治します」と励ましました。息子さんを抱く時の喜びの感情は気のめぐりをよくします。心配して抱くと悪くなりますが、喜んで抱くとたいていは大丈夫です。
2008年1月下旬〜3月に治療しました。2月の治療の時には、ものの色が前より鮮やかに感じるようになったと印象的なことをおっしゃいました。それまでは周りがベールの向こうにあるような感じがして現実感がなかったそうです。3月になると日常業務に支障はなくなった。記憶力も回復してきた。仕事の能率も上がっている。身体は疲れにくくなったということで治療を終了しました。昇進が決まり、喜んでいらっしゃいました。
※治療例は個人情報保護の観点から、患者さんの名前を仮名としているほか、年齢、状況を大勢に影響ない範囲で少しだけ変えている場合があります。ご了承ください。
2008年05月17日
2008年05月13日
治らないという呪縛(じゅばく)
現代医学の分野で腰痛についての考え方が大きくかわりつつあるという話を前回はしました。腰痛の原因として心理・社会的要因の要素が大きく注目されているとか、腰椎椎間板ヘルニアがあってもそれが痛みの原因とは限らないというような話です。
しかし、新しい考え方はまだまだ大きな流れにはなっていません。患者さんはMRIの画像を見せられ、不十分な説明を受け「ヘルニアが神経を圧迫している」「治りにくい」と意気消沈してしまうことも多いのです。レントゲンの写真で「骨の間が狭まっている」といわれて「もう治らない」と絶望してしまう方もいらっしゃいます。医師の側にそんなことを言ったつもりはないでしょうが、治らないと言われたと受け取ってしまう場合が多いのです。実際は治るのに、「治らない」「治りにくい」と思い込んでしまいます。治らないと思い込むと、治りにくくなってしまいます。
「変形性脊椎症」「椎間板ヘルニア」「脊椎すべり症」本当はすべて治ります。変形は治らなくても、日常生活に支障がない程度には治るのです。
医師、柔整師や鍼灸師、治療家の中にも「これは治りにくい」と不用意に発言してしまう先生が、ほんの一部ですがいらっしゃいます。本当に難しく治りにくいものは仕方がありませんが、「この程度で治りにくいといわれたの!」とこちらが驚くような例も結構あります。私の治療は患者さんを励ますことから始まります。
しかし、新しい考え方はまだまだ大きな流れにはなっていません。患者さんはMRIの画像を見せられ、不十分な説明を受け「ヘルニアが神経を圧迫している」「治りにくい」と意気消沈してしまうことも多いのです。レントゲンの写真で「骨の間が狭まっている」といわれて「もう治らない」と絶望してしまう方もいらっしゃいます。医師の側にそんなことを言ったつもりはないでしょうが、治らないと言われたと受け取ってしまう場合が多いのです。実際は治るのに、「治らない」「治りにくい」と思い込んでしまいます。治らないと思い込むと、治りにくくなってしまいます。
「変形性脊椎症」「椎間板ヘルニア」「脊椎すべり症」本当はすべて治ります。変形は治らなくても、日常生活に支障がない程度には治るのです。
医師、柔整師や鍼灸師、治療家の中にも「これは治りにくい」と不用意に発言してしまう先生が、ほんの一部ですがいらっしゃいます。本当に難しく治りにくいものは仕方がありませんが、「この程度で治りにくいといわれたの!」とこちらが驚くような例も結構あります。私の治療は患者さんを励ますことから始まります。
2008年05月12日
腰痛の見方は大きく変わった!
現代医学の分野で腰痛についての考え方が大きくかわりつつあります。2008年1月の関西中医鍼灸研究会で早川敏弘会員(天津中医薬大学準教授)が報告してくれました。
一般の方向けに要約すると、
◆現在は「腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」の概念が大きくかわりつつある。
◆腰痛の原因として心理・社会的要因の要素が大きく注目されている。ストレスによる心身症として腰痛を考えることが多くなっている。
◆腰椎椎間板ヘルニアがあってもそれが痛みの原因とは限らない。
ストレスによる心身症だけでなく、梨状筋(りじょうきん)症候群など、筋肉・関節のトラブルが腰痛や下肢の痛みの原因である可能性が高い。(梨状筋とはお尻にある筋肉の呼び名です)
といったことになります。腰椎椎間板ヘルニアでも特殊な場合をのぞき、医師が手術を積極的に勧めることはまずなくなりました。
☆ 画像だけでは痛みの原因はわからない
「腰椎(腰の骨)に明らかな異常がなくても痛みは生じます」と福島県立医科大学医学部整形外科の紺野愼一准教授は新聞記事等で発言されています。
紺野准教授によると
外来の腰痛患者の約7割はMRIなどで検査しても異常が見つからない。異常が見つかった約3割についても「そこが痛みの原因であるとも限らないのです。画像だけでは痛みの原因はわからない。これが新しい常識です」とのこと。
日本整形外科学会の腰椎椎間板ヘルニアについてのパンフレットにも「MRI画像で椎間板が膨らみだしていても、症状がなければ多くの場合問題はありません」と明記されています。
紺野准教授は患者さんの腰痛に心身症の要素が大きいとなると、精神科、心療内科と連携して治療されています。日本の整形外科の腰痛治療の新しい流れです。(5月8日へ続く)
※専門家、鍼灸学校学生の方は、福島県立医科大学教授の菊池臣一先生の『腰痛をめぐる常識の嘘』(金原出版)を読まれることをお勧めします。菊池先生は腰痛の世界的権威であるカナダのイアン・マックナブ教授に師事。日本整形外科学会の会長を務めた経験もあります。象牙の塔にこもっている方ではありません。「この本の内容はある意味では一臨床家の腰痛研究の足跡かもしれません」と序文にあります。臨床での疑問を大切にされている姿勢には好感がもてます。お父様はなんと「ほねつぎ」、柔整師でした。
一般の方向けに要約すると、
◆現在は「腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」の概念が大きくかわりつつある。
◆腰痛の原因として心理・社会的要因の要素が大きく注目されている。ストレスによる心身症として腰痛を考えることが多くなっている。
◆腰椎椎間板ヘルニアがあってもそれが痛みの原因とは限らない。
ストレスによる心身症だけでなく、梨状筋(りじょうきん)症候群など、筋肉・関節のトラブルが腰痛や下肢の痛みの原因である可能性が高い。(梨状筋とはお尻にある筋肉の呼び名です)
といったことになります。腰椎椎間板ヘルニアでも特殊な場合をのぞき、医師が手術を積極的に勧めることはまずなくなりました。
☆ 画像だけでは痛みの原因はわからない
「腰椎(腰の骨)に明らかな異常がなくても痛みは生じます」と福島県立医科大学医学部整形外科の紺野愼一准教授は新聞記事等で発言されています。
紺野准教授によると
外来の腰痛患者の約7割はMRIなどで検査しても異常が見つからない。異常が見つかった約3割についても「そこが痛みの原因であるとも限らないのです。画像だけでは痛みの原因はわからない。これが新しい常識です」とのこと。
日本整形外科学会の腰椎椎間板ヘルニアについてのパンフレットにも「MRI画像で椎間板が膨らみだしていても、症状がなければ多くの場合問題はありません」と明記されています。
紺野准教授は患者さんの腰痛に心身症の要素が大きいとなると、精神科、心療内科と連携して治療されています。日本の整形外科の腰痛治療の新しい流れです。(5月8日へ続く)
※専門家、鍼灸学校学生の方は、福島県立医科大学教授の菊池臣一先生の『腰痛をめぐる常識の嘘』(金原出版)を読まれることをお勧めします。菊池先生は腰痛の世界的権威であるカナダのイアン・マックナブ教授に師事。日本整形外科学会の会長を務めた経験もあります。象牙の塔にこもっている方ではありません。「この本の内容はある意味では一臨床家の腰痛研究の足跡かもしれません」と序文にあります。臨床での疑問を大切にされている姿勢には好感がもてます。お父様はなんと「ほねつぎ」、柔整師でした。